ROUNDABOUT
4.終






「いきなりそんなコト言われても困んのよね」

後日、吉良は、阿散井を通じて松本乱菊に面会を申し込んだ。意外なほどあっさり了承をよこした彼女に、情報提供を含めて、藍染関連の捜査へ直接参加したいとの意向を伝え、返ってきた一声は、予想したとおりにそっけないものだった。

「第一、昨日の今日でアンタをふらふら出歩かせるなんて、上が納得するわけないでしょ」
「ええ、ですから、松本さんに後見をお願いしたいんです」
「フ−ン、、、一体、どういう風の吹き回し?」

わざとからかうような口調で問う乱菊の眼差しは、決して微笑を含むものではなかった。
突き刺すような値踏みの目線。口先だけの言い訳が通用する相手ではない。
吉良は、浅く腰掛けていたソファーから立ち上がり、乱菊がその背を預ける重厚な事務机の前に向かう。彼女の顔を真正面に見据えて、口を開いた。

「市丸隊長を引き止められなかったのは、部下であった僕の責任です。僕は、自分の負うべき責務を果たしたい」

じりじりと頬に照りつける日差しが肌を焦がす。まぶたをつたい落ちる汗すら厭わずに、彼は、向かい合う相手の双眸を見つめて立ち続けた。
数分の空白。それを破ったのは、乱菊の低い声音だった。

「正直、、、、、この状況であんたのこと、信用してくれるヤツがいるとは思えないんだけど?」
「それは、、、松本さんご自身が、僕を疑っておられるということでしょうか?」
「ありていに言えば。敵に寝返るかもしんないあんたの前で、いちいち気ィつかってたら仕事が進まないわよ」

にべもなく言い捨てて、背筋をのばして立ち上がる。ひらひらと、片手をふってみせる仕草が、彼によく似ている。吉良はふと、そう思う。

「情報をもらえんのはありがたいけど、直接参戦は無理。あきらめな。」
「、、、、松本さん」
「なに?」
「敵との密通を疑うなら、松本さんも疑わしいんじゃないんですか?」
「はァ?」

一瞬、緩んでいた空気が、再び緊張の度合いを深める。

「先日、市丸隊長が去り際、貴女に、何事かを伝えていたという情報があります。それでなくとも貴女は、彼と親しい関係にあって、、、今も、一番隊直属の人間が派遣要員と称して見張りについている、、、、そうじゃないんですか?」

硬い表情で睨みつけてくる乱菊の視線を、吉良は真っ向から見つめ返した。

「でも貴女は、今、第一線に立って彼らを追う権限を持っている」
「、、、何が言いたいわけ?」

実際、上手いやり口でないことは判っていた。人間は良くも悪くも、感情で動く生き物だ。
それでも、ありったけの力をこめてひとつ、ひとつの言葉を紡ぐ。

「僕を疑われるのは当然のことです。いまさらこんな申し出をすることが厚顔であることも承知してます。でも、僕にはどうしても、彼に直接会って問いただしたいことがある、、、、
そして、松本さんが、市丸隊長の捜索を強いて請け負われた理由も、同じところにあるのではないかと、僕は、思うんです」

なおも言葉を接ごうとした吉良を、乱菊のあげた片手が制する。ちらりと天井を見上げ、ゆっくりとため息を吐いた。

「そういう、回りくどい言い方、、うざったくてキライなのよね」
「、、、すみません」

白皙の青年は、寄せていた眉根を緩めて、ぽそりと呟く。その表情につい苦笑をこぼして、乱菊は彼の肩をぐいと引き寄せた。

「いいわ、あたしがアンタを買ったげる」
「え、、あ、、、ありがとうございます!」

思いがけず間じかに寄せられた唇に、つい、頬を赤らめる。その反応に、くすくすと笑みをこぼしながら、ぱっと襟元を掴んでいた手を離した。

「それじゃ吉良、すぐ席次をあげるわけにもいかないけど、一応、あたしの部下ってことで働いてもらうから」

くるりと、背を向けて、長い髪をかきあげながら事務机に向かう。その手がサラサラと書き上げたひとひらの指令書を、正しく両手で押し頂いて、吉良は、深く頭をさげた。




あの日、僕が聞き逃した小さな悲鳴。
今、振り返るたび、自身を蝕む悔いの重さが、どれ程のものであったとしても、
ただ、その重さを推し量ることにかまけている暇はないのだと思う。

「ついておいでイヅル」

あの人が残した糸をたぐって

「僕は、市丸隊長を、追います」





前へ、進もう。







2005.5

かなり好きかって造りこんだ上、やたらどつぼはまったような話で、ここまでお読みくださった方、ほんとにありがとうございました!!
ちょうど、藍染さんが異世界に逃亡したあと、どうやら置き去りにされてるらしいイヅルをなんとかしてやってよ帯人先生!と、思い、、、ってか、むしろ描いてくれないなら、自分でイヅル更生物語作るよ、、作っちゃうよ!!ってな、勢いで書きなぐったもので、、いやはや、いやはや。
一体、これから本編とどれだけ食い違ってくんだろうと、ドキドキしつつ、イヅル君もギンも乱菊ねえさんも、恋ちゃんも、幸せになって欲しいなあ、と、そういう期待と妄想百%で、できてます。

しいて言えば、いっそ、三番隊は、隊長:乱菊、実質的な副隊長:吉良になっちゃえばよかですよ。
時々、大喧嘩して、吉良君が泣かされてればさらに良し。
ごく普通に職場で猥談をたしなまれる乱ねえに、潔癖な吉良君が眉ひそめてショック受けてたり、
時々姉弟に間違われたり、市丸の悪口で意気投合して盛り上がったり、
最終的には乱菊がボケ、イヅルがソフトつっこみあたりでおちついて凸凹だけど良いコンビとかなってくれれば、、

すみません、いい加減、目をあけながら夢を見るのは、このあたりでやめときます。